マニカル、でYAHOO検索して見たら見つけてしまった「(有)マニカル電○設備」という一言だけで適当に捻り出してみました。もしこんな二人がやってたら、私は絶対ここに頼む!(*´∀`*) (実在する方は滋賀県にあるようです。がんばれー!) 有限会社 マニカル電気○備 ドアを開けたところでぴるるると電話が鳴った。 「……はい」 三回も鳴ったところでようやく呼び出し音が途切れたと思えば、えらい低い、いわゆる地を這うような声が応答をする。……というか、応答になってない。 そこでようやく間に合った。デスク越しに上体と手を伸ばして受話器をひったくる。 「大変お待たせしましてすみません、こちら有限会社マニカル電気○備です!」 精一杯の愛想をこめて応答すれば、向こうからは泣きそうに安堵の声が戻った。 「バカカニ」 会話を終えて受話器を置いたところで傍らから盛大に鼻を鳴らされた。そっちに目をやれば椅子の背が軋むほどに体重を預けた上に自分のデスクに片足を乗せたカルディアが盛大に口を尖らせている。 「こんな時間から仕事受けてんじゃねェよ」 「こんな時間も何も、終業時刻まであと30分あるだろうが。……てか、先方はさっきも掛けたけど誰も出なかったって言ってたぞ、お前今日一日何やってたんだよ」 よく見ればカルディアのデスクには漫画雑誌が何冊も積まれている。大方近くのラーメン屋からもらってきたのだろう。 だがそんなことはおくびにも出さないでカルディアが無駄に胸を張って言うには。 「留守番してろって言ったのテメェだろうが」 「あーもーいい」 その留守番役があの電話対応とはどういうことだ、と喚き返したかったがマニゴルドはぐっと堪えた。ここでカルディアとケンカになったら今の飛び込みの仕事に遅れてしまう。この冬空にエアコン系統が壊れて困っている客を待たせるのは忍びない。 「話は後だ、せっかくの飛び入り仕事だからちょっと片付けてくる」 さっき入ってきたばかりのドアへと機材箱を片手にもう一度歩き出せば事務用椅子が軋む音の後で背後にふわりと気配が増えた。 「……俺も行く」 「なんで」 思わず聞いてしまったのは、今日は仕事する気はないと朝から宣言していた(だから仕方なく留守番を頼んだのだ)カルディアの気が変わった理由が判らなかったからだ。 「てめぇに任せると、余計なトコまで点検しだして時間がかかるだろ」 勤労意欲、とかいう言葉と縁が遠い性格をよく知っているので、つい胡乱に見返してしまうとカルディアが口を尖らせてとにかく、と言い募る。 「俺も行く」 「……まぁいいけどよ」 一度言い出したらマニゴルドの話など聞かないのはいつものことだ。マニゴルドにはさっさと先に出て行ってしまう背中を慌てて追いかけつつ肩を竦めるしか出来なかった。 「故障箇所わかったか?」 「俺のサーチ能力舐めんなよ」 現場に着いて、マニゴルドが機材を運んでいる間に電気配盤を眺めていたカルディアが首だけ振り返ってふふんと得意そうに笑う。その笑みで、既に仕事の半分以上が片付いた事を悟ったマニゴルドは安堵半分に苦笑した。 おおよそ普通の作業はやろうとしないカルディアだが、実はカルディアには特別な才能がある。現場を見ただけで故障箇所が判るというなんだか不思議な能力だ。 出会った頃はそんな話を信じる気にはならなかったし、正直胡散臭いとしか思っていなかったが、一緒に作業しているとカルディアの言葉が正しい結果となる事が多くて、結論としては現在のマニゴルドはカルディアがおかしいと指摘した箇所から作業を始める事にしている。 カルディアの弁によれば、配盤を見ると不具合が起きている箇所がそれを訴えてくるのだという。つまりは勘なのだろうが、それをカルディア本人はサーチ能力とかちょっと格好良さげに言うのがちょっと不思議な部分だ。 「早く終わりにして帰ろうぜ、腹へった」 「わかった、車で待ってていいぞ」 実質作業員が一人しかいないような小さなこの有限会社がどうにか潰れないでやっていられるのはカルディアのおかげといってもおかしくはない。 故障箇所が瞬時に判るから余計な手間なしで修理にかかることが出来る。当然復旧までの時間が格段に少なくてすむから、会社としての評判はいい。とはいえ、二人だけの小さなこの有限会社の有能さを知っている会社も少ないから、残念ながらそれほど潤っているわけでもない。 実際のところ、どれほど故障箇所を見つけるのが早くても修理に携わるのはマニゴルド一人なのだから、マンパワーが圧倒的に足りないのだ。 カツカツよりは少しマシ、くらいの日々だが、マニゴルドとしては自分の判断で全てを動かせるこの現状に結構満足していたりするのだ。 絶縁テープを巻きなおして元の場所に嵌め直す。主電源を入れる前に、何度か促したもののなぜか傍でこっちをじっと見ていたカルディアを改めて呼ぶ。 「よし、直った。……カルディア、悪いがもう一度見てくれ」 「今度はどこも何も言ってこねェ」 「OK」 たった一瞥してそう言うなり、今度はすたすたと車に戻っていってしまうのにももう慣れた。カルディアの後姿を横目にマニゴルドは手早く機材を片付け始めた。 喜べ、と車のドアを閉めながらマニゴルドはカルディアへとVサインをした。 「さっきのエアコンの件、先方が割り増しで払ってくれたぞ」 連絡がつくまでの待ち時間はともかく、到着してからあっという間に直してしまった手際を高く評価してくれたらしい。 「晩飯はいつもより豪華に出来んぞ、なに食いたい?」 「りんご!」 途端にカルディアがきらんと目を輝かせた。 「お前なぁ……」 たまにこいつは底抜けに馬鹿なんじゃないだろうかとかマニゴルドが思ってしまう瞬間だ。 「りんごはもう買ってあるから安心しろ」 そもそもりんごは普通はデザート的な立ち位置のはずだ。なのでもう一度回答を促す。 「メインで、何か食いたいものないのかよ」 「お前の好きなものでいい」 「あっそ」 可愛い発言にうっかり頬が緩みそうになるが、マニゴルドの好みを優先するなんて殊勝っぽい態度に騙されてはいけない。なんせ作るのはマニゴルドで、カルディアは食べる専門なのだから。 えーと、と今月の収入と出費の大体の額を頭の中で天秤に掛けたマニゴルドは結論を出した。カルディアがそう言うなら、もうしばらく緊縮財政のままで行かせてもらう事にする。とはいえ、目刺を出したら多分カルディアは怒るだろう。 色々を計算して調整して、マニゴルドはどうにか無難そうな結論を出した。 「……たまにはトンカツにでもするか」 「りんご」 「トンカツって言えばキャベツと、栄養的にはほかには……」 「りんご」 「もうそれは判ってるってーの」 しつこく繰り返すカルディアにさすがに閉口する。何でも食べるくせに、一番好きなのはりんごなんて、子供なんだか大人なんだかさっぱりわからない。 「わかった、飯終わったらデザートにありったけ剥いてやる」 確約してやればようやく満足したらしい。小さく頷いて助手席のシートに深く沈み込んで、そしてひょいとこっちに向き直ったかと思うと。 「うさぎがいい」 「……へいへい了解」 まったくもって可愛いんだか可愛くないんだか……やっぱり可愛いんだか、本当にわからない。 結論を出すのはやめておいて、頭の中で今晩の夕食の献立を組み立てながらマニゴルドはおんぼろワゴンのギアをトップに入れた。ここからスーパーまではあと数分だ。 トンカツの材料を調達していくわずかな間に、買い物籠に幾つのりんごが紛れ込むか、それは神のみぞ知ることである。 |