秘密の夜


「……まただ」
 こっそり覗いた先の光景に兵部はきゅっと眉を寄せた。
 いつも大の字になって寝る不二子のネグリジェ(と西洋では言うのだそうだ)が大きく捲くれ上がって脚が丸見えだ。そして毛布はいつ蹴りだされたのか床に丸く渦を巻くように落ちている。
「寒くないのかなぁ」
 春になってきたとは言え、まだ明け方は結構冷えるのに。
「こんなんじゃ風邪引いちゃう」
 何度言っても不二子の寝相は直らない。
「不二子さんってば」
 呼びかけても返事はない。
 すやすやと幸せそうに眠っているその横顔に兵部は小さく溜め息をついた。
 あまりにも幸せそうで起こす気にもならない。
「……もう、仕方ないな」
 床に落ちている毛布を引っ張り上げ、兵部はなんとか彼女に掛け直そうとした。だが兵部の小さな身体では大きな毛布は結構重くて、しかも彼女のベッドは大きいから兵部の背丈ではなかなか届かない。
 仕方ないので念動力を使って兵部は身体を浮かせた。これなら彼女にちゃんと毛布を掛けられる。
「んー……」
「……うわっ!」
 ベッドの真上から毛布を掛けなおしていたら、急に白い手が伸びてきた。
「何すんだよ、」
 強く引っ張られてどすんとベッドに落下し、反動でぽんと跳ねてしまった。柔らかいとは言えマットに鼻を強打して涙目で兵部が眉を吊り上げた。寝たふりでからかうなんてひどい。
 ……と思ったが不二子の瞼は閉じたままだ。
「ちょ……っ」
 と、ぐいっと頭を引き寄せられる。毛布ごと抱え込まれるように引き込まれて兵部は目を白黒させた。
「僕は毛布じゃないってば」
 抗議にもむにゃむにゃと寝言が返るだけだ。
「おやす……み……」
「……もう、」
 寝息に混じった言葉に兵部は小さく笑った。そしてちょっと躊躇ってから口を開いた。いつもは絶対にそうは呼ばないけれど。多分今なら聞こえていないだろうから。
「……お休み、姉さん」
 小さく呟いて兵部も目を閉じる。優しい温もりに包まれる幸せを教えてくれた大事な存在に寄り添って。

 ……もちろん、一時間後には毛布ごと兵部も蹴りだされる羽目になるのだが、この時点での兵部は幸せだった。
 ――それは、ちょっとした秘密の夜の話。
 
(終)



サンデー17号での兵部と不二子さんのシーンが、あまりにも色のないシーンで、こりゃやっぱり二人はすっかり姉と弟で確定!と(勝手に)騒いでたらQ嬢がくれました。いや、ホントはくれたんじゃないかも……。自分のおえびにUPしようと思えば出来たよね?ごめん、強奪しました。ありがとう。