花火
|
「まったく、あなたはどうしていつもこうなんですか」 「ちょっとくらいいいじゃん、……あ、尺玉だぜ」 僕の少し頭上でぶつぶつといつものようにぼやいてるのを聞き流し、僕は僕達の足元――かなり下を指した。 ドォンという轟音とともに色とりどりの炎が開く。真っ黒な空の中に一瞬だけ開く豪華な花だ。花火とはよく言ったものだ、と感心する。 「真木も見ろよ、すごく綺麗だぜ」 今の体勢はというと、僕は真木に抱えられた格好だ。 ちょっとした仕事の帰り、もう動きたくないといったら真木は眉根を寄せて(そうすると眉間のしわが深くなるといつも言ってるのに)、僕を両腕に抱えてくれた。そのまま上空をのんびり移動して(真木の翼だとさすがに瞬間移動のような速度ってわけにはいかない)帰る途中でどこかの花火大会を見つけたのだ。 見物して行こうと言った僕への真木の反応が冒頭の台詞ってわけ。 「花火なんてもう何度も見てるでしょうに」 「何回見たっていいじゃん、綺麗なんだし、この時期しか見られないんだから」 綺麗な花火を観賞するという余裕もない子に育てた覚えはないんだけど、なんだか真木はさっきから文句ばかり言っている。 「そんなものより、あなたの身体の方がずっと心配なんですが」 ……あ、そうか。 ここでやっと僕は動きたくないと言ったのを思い出した。確かにちょっと疲れてて歩くのが面倒だったのと、僕がそう言ったら真木がどうするか判っていたからこその言葉だったんだけど(本当を言えばちょっと甘えたかっただけだ)、どうやら生真面目な性格どおりに受け取って心配していたらしい。 「もうずいぶん良くなったよ、ありがとう」 でも本当の事を言ったらきっと真木はもう真っ赤な顔をして僕を抱えてくれなくなるから、言わない。代わりに澄ました顔で彼の労をねぎらってやる。 「ならいいのですが」 「それにここからの方が楽しいし」 「そんなものですか?」 「そうだよ、だって」 ようやく少し眉間のシワが緩んだところで僕はにやりと笑って付け加えた。 「二人きりで見る花火って、結構いいもんだろ?」 「…………、」 地上だと他にも誰かがいるからね。 そうすれば急に今までよりも真っ赤になって黙ってしまう真木に、僕はとどめのキスをした。 |
猫紐様(875さま)の花火絵がなんかものすごく大好きだったので一方的に読んでいただいたものです。花火絵のリンクつきで公開してもいいと許可を頂いたので、875さまのお気が変わらないうちに早速UP!(笑) わーい、許可をありがとうございました!!(大感謝) |