プライド合戦 |
当初の目的を果たしてネストのリビングに戻ると――文字通り、部屋に瞬間移動して戻ってきたわけだけど――スーツ姿が一人ほど顔を上げた。 「ただいま」 「……ご無事で」 僕の姿を認めたらしい声にはかなりの安堵の色があって、だが顔はそれとは真逆の仏頂面だ。 ソファに座りながら、僕は大仰に溜め息をついて見せた。 「嬉しいのか嬉しくないのか、判らない顔してるぜ?」 「安堵はしましたが、その前提として、安堵しなければならないような事態になっているのが不本意なだけです」 「お前の日本語はくどくてよく判らないな」 僕はわざとらしく視線をずらした。 恨みがましい目でこっちを見てくる真木の言いたい事は判っている。皆本光一に起きた異変に興味を持った僕がバベルに行くと言ったのを強硬に反対したのはこの真木だ。 彼曰く、バベルは僕であっても危険だとの事だが、僕にとってそんな危険なんか存在しないというのがこのいつまでたっても心配性の子供には判っていないみたいだ。 「真木、僕は大丈夫だよ」 身体の時間はあの時からずっと止めているけれど僕は実際にはもう何十年も生きている身で、バベルの連中なんて、僕に言わせればひよっこばかりだ。僕より長生きなのが一人いるけど、彼女の扱い方は幸か不幸か、よく知っているのだし。 そう言っても真木の眉間の皺は消えない。これだからそれほどのトシでもないのに老けて見えるのだ。僕はちょっと真木をからかいたくなった。気の毒な皺をとってやるのも育ての親の義務だろう。 「例えば」 と言いながら僕はちょっとだけ意識を集中させた。 「こんな格好だったらお前が心配するのも判るけど」 言葉と同時に僕の姿は大きく変わった。……少なくとも変わって見えているはずだ。 今皆本光一が周囲に見えているのと同じくらいの年齢の子供の姿だ。面倒だから学ランのままで、でも見た目としては十歳くらいに調整している。 もっとも、髪の色までは変えていない。僕の髪はあの時に色を変えたままで、もう二度と元には戻らない。それは僕に刻まれた額の傷と同じく烙印のようなもので、ただの視覚の変化さえも僕には許せないからだ。 ……別に、今更決心が揺らいだりするわけではないけれど。 「どう?今とは雲泥に可愛いだろ」 小首を傾げていつもより大きく感じる真木を見上げると、彼はあろう事か大きく溜め息をついて首を振った。 「……少佐、面白くないですよ」 「なんで?」 呆れたという顔で僕を見下ろす視線になんとなくプライドを傷つけられる。 真木の事だからこの姿を見たら赤面して鼻血くらい出すと思ったのに、真木の分際で、生意気に。 「仕方ないでしょう」 と、真木は僕の心を読んだかのように続けた。 「あなたの中身はいつだってこれに近いですから」 言葉の内容に更にむっとする。 一体どういう意味だ。でもここで怒っては年上的な余裕がないみたいで、それも業腹だ。念動力で真木の髪を引っ張ってやろうとしていた僕は寸前で思い直した。 「……まぁいいや」 実際、十歳の僕に欲情されても困るのだし。 「お前がショタコンじゃないって判って、嬉しいよ」 「当たり前です」 やっぱり眉間に皺を入れまくった顔で真木は頷き、僕はつまらない結果に拍子抜けして踵を返した。バベルで色々やって来たからそれなりに疲れてもいたし、もう寝てしまおう。 「お休み、真木」 「ゆっくりお休み下さい、少佐」 僕を見送りながら真木が本を手に取るのが見えて、僕はちょっと面白くない気持ちになった。 まったくもって、真木の分際で。 今日は面倒だけど、明日までこの失礼な態度を覚えていたら苛めてやろうと心に決めて、僕は自分のベッドへとテレポートした。
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サンデー27号見て、こういう想像をしてしまう私は根っから兵部受けなんだなぁと思い知った気持ちです。 あんなに皆本可愛かったのに!(笑) でもって、初めて兵部視点です。しかも一人称にしてみたら、思った以上にむずかしいぃぃぃぃ! ごめんなさいもうしません、許してください……(T▽T) |