P.A.N.D.R.A 13のカタカナお題 No.1

PANDRA.net様からお借りしましたv
思いついたまま書きなぐってます。短いです。また、それぞれの話に関連はありません。
全体的には兵部と愉快なパンドラの仲間たち(真木x兵部風味)です。

■プリズナー
■パペット
■カメラ
■ア・ガール ([その他]02になりました)
■ナニー
■ボス
■サングラス
■ヒゲ
■ラジオ ウェーブ
■スチール
■シード
■ザ・チルドレン
■ライバル

■プリズナー

「やっと来たね」
 その空間に向かって一歩を踏み出した途端そう言われた。
 自分が来るのを予期していたような、まるで待っていたような口振りに真木は眉を寄せた。気配は絶っていたし、服装もちゃんとバベルの警備員のものに変えているのに(髪もちゃんと帽子の中に押し込んでさえいた)。
 だがその視線を手元の本からわずかに動かしもしないで彼は確かに言ったのだ。だから真木は口を開く。
「……お待たせしてしまいましたか?」
 問いには銀の髪が左右に振られた。
「そうじゃないけど」
 実際、彼に呼ばれてここに来たわけではない。
 今まで何度もここからの脱出を勧めて、全部却下されていた。何度も繰り返すやり取りに、今の時点では彼にはここから出る気はないのだと諦めとともに覚えるしかなかった。
 だから今回も、こっそり潜入して元気な姿を見たら戻るつもりだった。声を掛けるつもりもなかった。これは自分のただの我侭な感情による行動だから。
 それなのに彼は、対ESP強化ガラス越しに悠然とソファに寝転がってこっちを見て嫣然と笑むのだ。
「ちょうどお前の顔を見たいなぁと思ってたから」
「……俺は、いつでもそう思ってますけどね」
 どっちが囚われているのかは自明の理だと真木は苦笑しながらもう一歩を踏み出した。

■パペット


■カメラ

 写真は嫌いだ、と彼は頬を膨らませて抗議する。
「だって、写真を撮られると魂が抜けるって言うじゃないか」
「何そんな明治時代の人みたいな事言ってんすか」
 あんたまだ八十でしょ、とか兵部に言えるのは多分このパンドラの中でも一人だけだ。
「記憶なんてーのはいつかは薄れちゃうんですから、記録しておくのが一番いいんスよ」
 そう言うとひょいと伸ばした葉の指の先でふわふわとカメラが宙を動く。
「ほら真木、それ押さえてて」
「そうよ、せっかくなんだから逃がさないで」
「あ、こら、放せ」
 瞬間移動で逃げようとするのを紅葉が干渉を掛け、更に真木がその能力で兵部の自由を奪うに至って、ようやく兵部が諦める。
「……ああもうわかったよ、逃げないって」
 両手を挙げて降参する姿にカメラがフラッシュを準備する。
「はい、じゃあみんなでカメラに向かって、…チーズ!」
 そんな葉の合図とともに宙を飛ぶデジタルカメラは軽快に何枚もシャッターを切った。
 そこに焼き付けられたのは、世界中で追われているエスパー達の姿ではなく、ただの若者達がじゃれあっているだけの光景だ。
「はい、『今日』の記念撮影終了〜」
 満足げにカメラを掌に戻した葉の一言でまた皆それぞれの場所へ散っていく。
 たわいもない一日の大事さをある意味最も知っているのは彼らかもしれない。
 いつか訪れる近い未来には、この何人かがいない事を知っているからこそ、皆写真を撮りたがる。
 記録に残すために。記憶に刻むために。
「……チーズって、あなたも今時たいがい古いわね」
 そんなちょっと辛らつな紅葉のコメントに肩を落とした葉の姿でまとめられたのは、とあるパンドラの平和な一日の光景。


■ア・ガール

■ナニー

「ねぇ、ナニーって何?」
 そんな親父ギャグのような言葉を真面目に口にしたのは澪だ。
 そして訊かれたのは葉だ。澪の世話係であるコレミツは、昨日からちょっとした仕事で紅葉と中東に行っているから、何かを聞こうと思ったら葉くらいしか相手がいなかったのだろう。
「乳母……って言っても判らないよな……えーっと、」
 と、葉はちらりと背後を見やった。
 食堂の一角では、年少組をそれぞれ椅子に座らせ、その前にトレイを並べた真木が中の一人に箸の使い方を教え、窓の外のスズメの鳴き声に気を取られている一人にちゃんとお椀を持つように声を掛け、更に他の一人の頬についた米粒を取ってやっている。
 甲斐甲斐しいという言葉を具現化したような動きっぷりだ。
「ああいうの、かなぁ」
「ふーん」
 いつもの食事の光景から目を離し、新聞を広げながら背後を示す葉に澪はふむふむと頷いた。
 と、そんな彼女の視界の中で、年少組の傍を離れた真木が一つ離れたテーブルに陣取っている一人のところへ足を向けたところだった。
 その前に置かれたトレイの食事にはまったく手がつけられていない。上体を折った真木が困ったような顔で兵部に話しかけている。おそらく、ちゃんと食事を取れとか言っているのだろう。
 何言か言葉を交わして、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた兵部が少し顔の角度を変えて見上げる目を伏せ気味にし、そうすれば苦虫を噛み潰したような顔の真木が自らの手にスプーンを取り、トレイのスクランブルエッグを掬って差し出す。
 目の前に差し出されたスプーンを今度は兵部はちゃんと口にして、そして上目遣いに満足げにニッと笑う。
「……ふーん」
 いつもより更に眉間のしわを深くした真木の顔は真っ赤だが、対照的に涼しげな兵部の顔はなんだかとても楽しそうで。
 澪の頭にいいアイディアが浮かんだのはそんな時だった。


「将来の夢?」
 数日後、リビングにて。
 広いリビングに集まって、だがそれぞれがてんでばらばらにそれぞれ好きな事をするのがパンドラでの常だ。それぞれ勝手に好きな事をしながらも空間的には一緒にいるという感覚をここのトップが好んでいるからだ。一人が好きなくせに一人でいるのは好きではないというのはいわゆる猫の感覚だが、それに皆慣れてしまっている。
 そんな中で、まだコレミツが戻ってきてないせいで淋しいのか、澪は葉に話しかけていた。
「あのね、あのね、将来『ナニー』になるの!」
 勢い込んで言う澪に葉はちょっと視線を天井に向け、それからああ、と小さく声を上げた。
「ナニーって、こないだ言ってた?」
「うん、あれになるの」
「へぇ、そりゃいいね」
 葉と澪の会話に口を挟んだのはリビング真ん中のソファで本を読んでいた兵部だ。と、次の瞬間その姿を澪の傍に出現させる。
「澪なら優しいナニーになれるよ」
 孤独や寂しさを知っているからね、と小さく続けて兵部は澪の髪を撫でた。途端に赤くなる澪を覗き込んで付け加える。
「でもそのためには勉強も必要だからね」
「うん、頑張る」
 澪はこっくりと頷いた。そして目をキラキラさせて続ける。
「そうしたらあたしが少佐にご飯を食べさせてあげるからね」
「……そ、そう?」
 やや唐突な彼女の発言に、言われた兵部のみならず、リビングの誰もが面食らって目を見開いたところで。
「……それ、どっちかって言うと介護じゃないの?」
 なんてうっかり口走ってしまった葉はもちろん直後にひどい目にあったのだが、澪の未来予想図はしっかりと形作られているようだった。……多少間違えた方向ではあるけれど。


■ボス

「ボスっていう呼ばれ方はあまり好きじゃない」
 とのクレームが入ったのはある日の午後だ。
「まるでサル山のボス猿みたいじゃないか」
「じゃあ何がいいんスか?」
 あながち間違ってないのでは、と思いつつ葉は一応聞いてみた。
 最近になって葉が背も追い越して、すっかり年下に見えるようになってしまった外見だが一応相手は葉より数倍年上だ。しかも子供以上に我侭だから無視すると何をされるか判らない。
「マスターってのはどうだい?」
 葉の問いに、兵部の中ではもう既に決まっていたらしく、即答が戻った。
「マスター?」
「なんか偉そうだし威厳もあるじゃないか」
 なんだかウキウキ顔で兵部が続ける。
「ついでに、超能力もフォースって名前に変えない?そしたらもっと格好良くなる気がするんだけど」
 ええと、と葉は銀髪の学生服姿を見た。穴が開くほど。
「……あんた、もしかして最近スター○ォーズとか観ました?」
 うん、と目をキラキラさせて頷く年上の少年に葉は大きく溜め息をついた。
 いったい何年前の映画だと思っているのだろう。もっとも最近特別牢から出てきた身には何でも目新しいのかもしれないけれど。
 でも、一つだけ言っておかなければならない。
「悪いけど、あんたはジェ○イマスターってより、せいぜいがダー○ベイダーだと思うんだよね」
 正直に口にした葉がその後どうなったかは、……神のみぞ知る。

 

■サングラス

■ヒゲ

「おはよう、真木」
 身支度をどうにか整え、自室を出たところで声を掛けられた。
 振り返った先でストレートの髪を背中に流した紅葉は大振りのサングラスを高い鼻の上でちょっとだけ動かした。視点を合わせる時の彼女のクセだ。
「ああ、おはよう」
「あら、その頬どうしたの?」
「……えぇと、」
 心当たりはある。真木は左の頬に手をやった。ちりっと焼け付くような小さな痛みが頬に走る。
「ちょっと、シェイバーで失敗を」
「あらそうなの」
 視力を抑えるためのESP吸収ガラスの奥の目が瞬く。
「真木もヒゲ剃るのね、知らなかった」
「無精ヒゲだろうと言いたいんだろうが」
 見上げられてつい苦い顔になる。だが紅葉の方には悪びれた様子はない。
「そんな事言ってはいないわ」
 そう言って彼女はくすりと笑った。そしてサングラスをまた動かす。視点を真木の頬から違うところへ合わせて……そしてもう一度笑って続ける。
「背中にも引っ掻き傷があるみたいだけど、お大事にね」
 軽やかに笑って通り過ぎた彼女の後姿を呆気に取られて見送った後、……だから、と真木は呟いた。真っ赤な顔で。
「だから爪切りましょうって言ったのに……」
 もっとも、真木の部屋でまだ寝こけている人物にはそんな真木の呻きは聞こえてはいないようだった。


■ラジオ ウェーブ
■スチール
■シード
■ザ・チルドレン
■ライバル