『だってお前、他に友達いないだろ?』
「大きなお世話だ!」
そう言ったら(正確には精神感応能力で伝えたんだけど)、なんか目を三角に吊り上げて、喚く。いつもはさらさらの銀色の髪もちょっと逆立ってたかもしれない。
まったく怒りっぽいやつだ。
やれやれ、と僕は溜息をついた。
これならホントにカオルたちのところに行った方がよかったかもしれない。彼女達、なかなか可愛かったし。
それに対して確かにこいつは、めったにいないほど綺麗な顔をしているけど、でも所詮生物学的には男でしかないから。
だからちょっと迷うけど、でも僕はこいつが嫌いじゃない。
「出かけるぞ」
そう言ってほんの少し首を傾げた体勢でそこに立ったまま動かないのは僕が肩に飛び乗るのを待っているからだ。
お前だって同じじゃないか、なんて事は絶対に言わないこいつが、僕にとってはやっぱり結構大事だと思う瞬間だ。
『しょうがないから、付き合ってやるよ』
キョースケの肩は幅が薄いしあまり広くなくて、実は長居しにくい場所なんだけど(だから僕は頭やら首元やら、あちこち移動しまくる羽目になる)、でも一応ここが僕の定位置だからな。
そういう意味で言っただけなんだけど、キョースケはちょっとだけ勘違いをしたらしい。
「……所詮僕達は、似たもの同士だからな」
少し寂しそうに呟くキョースケの頬に、肩の上の僕は顔を寄せた。
人間は相手に元気を出させたい時にはキスってのをするんだ。 僕はそれを最近覚えた。人工冬眠させられる前はそんな習慣、日本にはなかったはずなんだけど、時代が変われば変わるもんだ。
そんな思惑で白くて滑らかな頬に鼻先をくっつけたらキョースケがちょっと目を見開く。
「おいこら、噛むなよ」
なんて無粋な事を言われたけど気にしない。説明する代わりに隠し持っていた非常食を一つ手にして。
『ひまわりの種もやろうか?』
「いらん!」
差し出した先でキョースケがまた喚く。
なんでかなぁ、こんなにおいしいのに。このおいしさが判らないなんて、人間は気の毒な生き物だと思う。
まぁ僕の大事な非常食を食べなくてもキョースケはとりあえず元気が出たみたいで、それならその方がいい。
ひまわりの種だって、そのおいしさをよーく判ってる僕に食べられたいに決まってるもんな。
『キョースケ、早くしろよ』
「自分では何もしないのに文句を言うな齧歯類」
まだぷりぷり怒ってるみたいだけど、でもさっきよりも頬が薄赤くなってるのに僕はちゃんと気がついている。
そうなってるといつもはスカしたキレイ顔もちょっと可愛く見えたりするのも知っている。
だっていつも一番近い特等席で見てるんだもんな。
『僕だけ行っちゃうぜ』
「ふざけんな齧歯類」
喚きながらもちゃんと僕の居場所をつくってくれているのを知ってるから。だから僕はこいつに付き合ってやるんだ。
多分ずっと。僕の世界が終わるまで。
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