Queen of T

 ばたばたとリビングに乱れた足音で入ってきたのは澪だ。
「少佐!」
 瞬間移動能力者だと言うことも忘れてそうな勢いでソファの上でだらりと横になって本を読んでいる学生服の少年の傍へ駆け寄る。その様相に兵部が上体を起こして少女を見返した。
「どうしたの、澪?」
「あたし、……あたし、」
 なぜか今にも泣き出しそうな顔で澪は見た目なら彼女より少しだけ年上の少年を見上げる。
「少佐がもし死んじゃったら、少佐のこと……」
 きゅっと眉根を寄せて、少し半泣きの顔で思い切ったように少女は言葉を続けた。
「スマキにしてミンチにしてコンクリ詰めして海に捨てるからね!」
 瞬間、リビングがシーンとなる。
「……へ、へぇ……」
 なんだかものすごい発言にさすがの兵部も目が点になっている。
「それが嫌なら、ずっと生きてなきゃダメなんだからね!」
「う……うん、わかった」
 迫力負け。
 という言葉通りに兵部が頷き、ようやく澪がほっとした顔をする。
 その表情に兵部は小さく笑うとその髪を何度か撫でた。宥めるように、ありがとうと言うように。
「平均寿命はもうクリアしちゃってるんだけど、うん、でもできるだけがんばるね、澪」
「うん」
 勢いで詰め寄って言い放ったものの、ようやく我に返ったように少し頬を赤くした澪がソファに座る。まだ完全には落ち着いていないのか、ぐすっと鼻を鳴らす仕草に、兵部の目配せですかさずコレミツが彼女の好きなTV番組に回す。
「……さて、桃太郎」
 と、ふと兵部が手を伸ばし、次の瞬間その手のひらの上に茶色のふわふわした生き物が出現した。今までは澪の高く結い上げた髪の影に隠れていたのを瞬間移動で引きずり出されたのだ。
『わっ、何スルンダ!』
「澪に妙なこと吹き込んだだろ」
『何ノ事カナ、僕ハオ前ニサレタヒドイ事ヲ話シタダケ……いてて』
「ちょーっと二人きりで話をしようか?」
 ニコニコ顔の、だけど背中に背負ったオーラはなんだかどす黒い兵部がじたばた暴れるモモンガを手に姿を消す。消え際に桃太郎から誰カ助ケロとかいう喚き声が聞こえた気がするが、顔を見合わせた数名は救出を試みる事をあっさり諦めた。
 だって結局は。
「ホント仲いいわねぇ、戦前組」
「まぁつまり、少佐もツンデレだって事だね」
「…………あれもそうなのか?」
「あ、真木ちゃん今ちょっと萌え、とか思ったでしょ?」
「だ……誰が思うか!!」
 ――とか賑やかな幹部三人組の横で、ようやく落ち着いたツンデレの女王はぽりぽりとお菓子を食べていたのだった。

本誌143rdのサプリネタです。久しぶりの澪ちゃんです。
TはツンデレのTってことで、「T is for TUNDERE」 ってタイトルも考えたんですが、結局「破壊の女王」に合わせてみました。